将来に伝えておきたい災害廃棄物処理のはなし

~インタビュー~
岩手県における災害廃棄物処理を語る(その1)
岩手県 松本実

 将来に伝えておきたい災害廃棄物処理のはなしのトップバッターは、東日本大震災で岩手県の災害廃棄物処理の最前線で活躍された、岩手県環境生活部 廃棄物特別対策室 松本実災害廃棄物対策課長(当時)にお願いしました。当時のご苦労を振り返るとともに、今後の災害廃棄物処理に向けた課題や処理のポイントをお話しいただきました。

発災直後に発生した課題と岩手県庁の対応

(聞き手)

 東日本大震災の発生から、岩手県庁は様々な対応に取り組んだと思いますが、特に発災直後のことを振り返って、県としてどのような取組をされたかお話しいただけますか?

(松本課長)

 発災の翌日から、まず取り組んだのは政府に現状を伝え、処理に際しての自治体の要望を上げることですね。発災直後、当時の環境大臣政務官が被災地にいらしたので、直接要望を伝えることができました。

 そのときの要望のひとつは、災害廃棄物の処理費用についてです。通常、災害廃棄物処理の国庫補助は廃棄物処理法によって2分の1とされていますが、今回のような大きな災害の場合、処理しなければならない廃棄物の量が膨大であり、地方自治体で残りの費用を負担するのは無理だと思いました。

 また、処理の主体となるべき市町村自身が被災して大きなダメージを負っていたため、県が市町村からの委託を受けて処理できるようにして欲しいという要望も出しました。これについては、地方自治法を使って実現することができました。

 腐敗性廃棄物の海洋投入処分や再委託禁止の解除についても、早い段階で要望を出しました。

(聞き手)

 そういった要望をもとに、様々な法令上の措置が講じられたわけですね。

(松本課長)

 要望をだしてから、法令上の措置に至るまでの数か月間は本当に大変でした。ヘロヘロでしたよ。なぜ特別な措置が必要なのか関係者に何度も説明し、粘り強く交渉しなければなりませんでしたし、一方でテレビでは災害廃棄物に大きなハエがたかっている映像が流され、いろんな方に「早く片付けにとりかかれ!」と怒られっぱなしでした。緊急事態なのだから何とかしろと言われても、いろいろなルールがありますから、そうはいかないのが実態でした。

(聞き手)

 松本課長は、平成26年1月に開催された国立環境研究所主催の災害環境マネジメントシンポジウムで「スピード感を持った対応は無理」と仰っていますが、これはつまり処理を迅速に進めるためのルールがなかった、ということでしょうか?

(松本課長)

 そうですね。課題はいろいろありますが、例えばWTOの「政府調達に関する協定※」が挙げられます。今回のように規模の大きい廃棄物処理事業になると、この協定の適用範囲にあたります。そうすると、公告期間だけでも40日以上設けなければなりません。現場では県の関係者や住民から毎日のように「早く処理を始めて欲しい」と言われるわけですが、こちらとしてはどうすることもできず、困りました。協定を所管する外務省に問い合わせてもらうなど、なんとか例外的な措置がとれないものか相談してみたものの、「どうすることもできない」という回答でした。

 また、「スピード感を持った処理は無理」という言葉には、処理には3年もかかるので最初からあんまり頑張りすぎないで、というメッセージも含まれています。いくら処理を進めようとしても、土台になるルールがないのだからどうしようもない。発災当初は泥縄でした。将来起きる大規模災害に対して、しっかりとしたルールづくりができていれば、次はここまで苦労しないと思います。

(聞き手)

 災害廃棄物処理で、最初に必要になるのが仮置場の確保だと思いますが、この点についてはどのように対応されたのでしょうか?

(松本課長)

 仮置場を見つけるのは、基本的に市町村の役割ですが、今回は市町村だけでは十分な面積を確保できない恐れがあったので、県の管財課からリストを貸してもらって、仮置場として使える土地がないか探しました。また、県が国と交渉して、国有地等を仮置場として利用できるよう調整しました。

 発災当初、特に難しかったのは、このように処理における県の役割が明確でないことでした。平時は廃棄物処理の実務を市町村が担っていますので、県としてどこまで何を行うべきか、はっきりしないことが悩みの種でしたね。これについては、5月に環境省からマスタープランが提示され、県が市町村と総合調整を行いながら実行計画を作成することが明記されたことで、ようやく解決しました。

(聞き手)

 マスタープランには仮置場の設置や災害廃棄物の処理についての協議会を設置することが書かれていますね。

(松本課長)

 岩手県では発災後3月末ごろに、国の地方機関の長、県知事、各市町村の首長、関係団体等が集まって、処理の具体的な方針や体制づくり等について話し合う「岩手県災害廃棄物処理対策協議会」を立ち上げました。この協議会の設置によって、ようやくみんなで処理をやろう、という体制が整ったことになります。



 ※WTOの「政府調達に関する協定」:国外の企業が参入しやすくなるよう、政府や自治体が一定額以上の調達を行う場合に所定の手続きを行うよう定めた協定。

処理に必要な人材を確保するための攻防

(聞き手)

 処理に係る体制づくりも大切ですが、処理に携わる人材の確保も大変だったとお聞きしています。この点について詳しくお話しいただけますでしょうか?

(松本課長)

 災害廃棄物処理業務を動かすためには、土木系工事の設計・積算ができる人が必要になります。例えば、ある部分の土を入れ替えるという作業があるとしたら、その土を掘りだすのにバックホーで何回掘り、トラックに載せて何キロ先に運ぶかを計算するわけです。また、多額のお金を扱いますので、経理のスペシャリストも必要です。今回の災害廃棄物処理を行うにあたっては、「こういう人達がいないと仕事ができない!」と私から上司に直訴し、上司が人事サイドに指示するなどして人を集めてくれました。

(聞き手)

 他の部署と人材の奪い合いのようなことにはなりませんでしたか?

(松本課長)

 まずは部内で必要な人材を見つけるようにしました。そのほうが部内の人事異動という形で、迅速に対応できますから。それでも足りない場合は、他の部署から適任の職員を一定期期間貸してもらうこともありました。

 特に市町村からの委託業務契約については、短期間で完了しなければならないことや、地方自治法に基づく手続きが必要だったため、適任者として隣の課の総括課長さんまでお借りして仕事を進めました。一定期間とはいえ、別の課の一番偉い方をお借りするわけですから、まさに県庁総出です。総括課長さんをお借りしている間、その課の職員は大変だったと聞いていますが、おかげでなんとかこの時期の最大業務を完了することができました。結局、人材確保のために最も重要なのは、組織トップの柔軟な対応力ではないでしょうか。

(聞き手)

 松本課長は、欲しいと思った職員を積極的にスカウトされていたので、庁内では「人さらい」と呼ばれていたとか(笑)。

(松本課長)

 そのように呼んでいる人もいたようですね。廃棄物の分野というのは特殊な業務が多いですから、単に法制度に詳しい、経理に詳しい、といった職員では不十分なことが多いのです。ですから、以前一緒に仕事をしたことがあり、なおかつ廃棄物分野の事情に詳しい職員に仕事をお願いすることもありました。

 部署内、県庁内でも人材が足りない場合は、他自治体からの応援をお願いすることになります。今回は、環境省が職員の派遣を申し出てくれている自治体の人材リストを用意してくれたので、具体的に「この時期にこういう能力・知識を持った職員が何人欲しい」という要望をこちらからお伝えしてマッチングを行ったうえで、応援をお願いすることができました。一度だけでなく、何度も応援を出してくれた自治体もありますし、現在もなお、職員を派遣くださっている自治体もあります。

(聞き手)

 自治体の職員だけではカバーできない、専門的な知識についてはどのように確保したのでしょうか。

(松本課長)

 学会、大学、研究機関等から様々なご協力をいただきました。廃棄物資源循環学会の支援チームには災害廃棄物の推計作業を手伝ってもらいました。皆さん県庁近くのホテルに泊まりこみ、課の一画に座って熱心に作業してくださいました。また、処理する廃棄物に含まれる塩分については、北海道大学の研究チームにサンプリングをしてもらい、焼却しても大丈夫かどうか確認してもらいました。再生資材の安全性や使い道についての助言は、地盤工学会にお願いしました。

 今回は非常に大きな災害だったので、専門家の方々が自ら手伝いに来てくれるケースが多かったのですが、今後のことを考えると、専門家との連携やサポート体制をしっかりと作っていく必要があると思います。