将来に伝えておきたい災害廃棄物処理のはなし

~寄稿~
平成27年関東・東北豪雨による災害廃棄物処理の最前線(その2-②)
茨城県常総市市民生活部生活環境課
課長補佐 渡邊 高之
(当時)常総市災害廃棄物処理プロジェクトチームリーダー

平成29年2月

 平成27年9月に関東地方及び東北地方を襲った豪雨で大きな被害を受けた常総市における災害廃棄物の処理業務について、その2-②です。

7.今回の水害による被害の状況


常総市洪水ハザードマップ(鬼怒川) 
(平成21年4月作成)

マーク付きの画像は拡大することができます。)


 今回決壊した一級河川「鬼怒川(きぬがわ)」のハザードマップです。中央縦に上から下に向かって鬼怒川が流れています。

右端,つくば市との市町村界にも一級河川「小貝川(こかいがわ)」が流れており,二つの川に挟まれた部分に中心市街地が位置しています。当たり前かもしれませんが,実際の浸水域はこのハザードマップとほぼ一致していました。

出展:『平成27年9月関東・東北豪雨』に係る鬼怒川の洪水被害及び復旧状況等について 

平成27年11月8日 国土交通省関東地方整備局下館河川事務所


 こちらは国土交通省関東地方整備局下館河川事務所が作成した鬼怒川流域の降雨量を示した図です。発災の数日まえから関東地方には多数の線状降水帯が発生し,長時間強い雨が降り続きました。

左側上から3番目の水海道(みつかいどう)が常総市内です。ここでの雨量はこれまでの最多雨量を上回っていません。確かに何日も雨は降り続いていましたが,それほどの豪雨であったとまでは言えない降り方だったと記憶しています。

一方,図の上の方,鬼怒川の源流に近い付近の雨量,特に五十里(いかり)雨量観測所では昭和50年の観測開始以来最多の551mmで,これまでの最多雨量の約1.8倍近い雨が降っていたことがわかります。



浸水域の状況 


 これは今回の浸水域を表した図です。赤い線が市町村の境界線です。中央縦に水色の線が「鬼怒川」です。青い部分が浸水域です。▲印が堤防の無いところから水が溢れた若宮戸(わかみやど)の溢水地点,✖印が三坂町(みさかまち)で200mに渡り堤防が決壊した地点です。

今回の特徴は,浸水域がほぼ常総市内のみである点です。一部北側に隣接する下妻市(しもつまし)にも広がっていますが,大部分は常総市内でした。

浸水域は,常総市の1/3にあたる約40km2におよびました。

出典:~鬼怒川緊急対策プロジェクト~記者発表資料より抜粋 

平成27年12月4日 国土交通省関東地方整備局


 国土交通省が作成した氾濫状況の詳細図です。鬼怒川の決壊箇所(✖印)以外にも複数の溢水(→印)や堤防からの漏水(●印)が,いたるところで発生していたことが分かると思います。



被災の状況


 被災の状況です。

亡くなられた方が2名。さらに平成28年12月1日認定の災害関連死の方が6名,計8名の方がお亡くなりになっています。

住宅被害は全壊53棟,大規模半壊,半壊家屋を含めると5千棟以上。さらに床上,床下浸水を含めると8千棟以上の住宅が水に浸かり甚大な被害が発生しました。




7.1 浸水被害の状況


 ここからは、実際の浸水被害の状況を写真でご説明します。

写真にうつる多くのがれきが「災害廃棄物」となり、市町村の廃棄物部局が処理しなければならない対象となります。


溢水前の鬼怒川(きぬがわ)
下妻市千代川地内堤防より撮影


 9月10日早朝午前6時9分,溢水前の鬼怒川の状況です。

前日からの雨は止みましたが,川の中心部分が周囲に比べて大きく盛り上がり,物凄い勢いで流れていました。手前右端に堤防の一部が写っていますが,この地点の堤防の水位には余裕がありました。

鬼怒川からの越水状況(向石下地区)
27.9.10 10:16


 この写真は堤防があるところを川の水が乗り越えているところです。

堤防が無いところから水があふれるのを”溢水”といい,堤防を川の水がのりこえることを”越水”といいます。


住宅街への流入状況(市北部)
27.9.10 10:31


 溢水した水はこんなに勢いがあります。

市南部水海道地区の浸水状況
(常総市役所本庁舎南側市道) 27.9.10


 三坂町(みさかまち)決壊付近から南に約10km付近。この時は膝ぐらいの浸水高。


常総市役所本庁舎前駐車場(水海道諏訪町)
27.9.11 05:23


 決壊翌日9月11日早朝5時23分,常総市役所本庁舎2階から南東方向の写真。

目の前は庁舎前の来庁者用駐車場です。

市民の方や報道関係者,やむを得ず市役所に避難された方々の車が水没してしまいました。

写真中央から少し左奥に小さな空間に車らしき屋根が見えます。

ここは職員駐車場です。

300台近い職員の車は屋根まで水没しています。

夜中に参集した職員の車は,おそらく全台全損です。


 水没していく車は,窓が自動的に空いたり,ハザードランプが点灯しつづけたりします。

夜の闇の中で音なき悲鳴のようでした。


 最初は数台の点滅でしたが,少しずつ点滅し始める台数が増え,あちらこちらでチカチカとひかり,蛍のようでした。

そのうちクラクションも鳴り始め,完全に水没すると静かになってしまうのです。


職員駐車場の私の車(水海道諏訪町)
27.9.13 08:03


 水が引いたあとの車の様子。

“水平線”が何層にも,年輪のように残っていました。

隣の白いミニバンはK先輩の車。

運転席と助手席の窓が全開で,室内を乾かすためにそうしているのかと,勘違いしてしまいました。

常総市役所本庁舎 北側国道354号交差点付近(水海道諏訪町) (正面)水海道郵便局 27.9.11 12:09


 市役所北側国道354号と県道交差点付近。北東方向の写真。

正面は水海道(みつかいどう)郵便局。

写真奥まで延々と浸水しているのが確認できます。その奥の霞の上に見える山は筑波山。

郵便局は180cm浸水し,郵便物も濡れてしまったそうです。


常総市役所本庁舎北側敷地内(水海道諏訪町) 27.9.11 12:18


 市役所本庁舎北側の様子。

災害派遣で来てくださった自衛隊車両も水に浸かってしまいました。

正面奥,少し右側にある箱状の設備が,庁舎に電源を供給している高圧受電設備です。

ハザードマップの浸水を想定しかさ上げされていましたが,想定を超える浸水高により水没し、庁舎は電源を失ったのです。

常総市役所本庁舎1階浸水状況(通路南側)
(水海道諏訪町)


 本庁舎1階の浸水状況。

職員用机の上面すれすれまで浸水しているのがわかります。

9月10日午後から1階各課は,職員全員で,可能な限りの書類を必死で2階,3階に持ち上げました。


常総市役所本庁舎1階浸水状況(通路北側)
(水海道諏訪町)


 来客用椅子が浮いています。

常総市役所本庁舎は,平成23年3月11日の東日本大震災により震度6弱を受け,建物が損壊。

1年前に建て替えが完了したばかりでした。

1階が水没したことにより外部との行き来が遮断され,3階に設置していた災害対策本部は孤立しました。

この時,改めて地盤の高さの重要性を痛感しました。

常総市役所石下庁舎付近(常総市新石下) 国道294号の水没車両と筑波山 27.9.11 9:44


 発災翌日の写真です。

天気は快晴。

水田地帯は湖のようでした。

遠くに筑波山が見えます。

濁った水面に青い空と白い雲,今でもこの光景が私の記憶に強く残っています。


排水路の漂流物(常総市本石下) 27.9.11 09:07


 水が引いた直後の排水路に架かる橋の状況です。

私の自宅近くですが,このような光景は初めてでした。

この時,「これは相当のごみが,いたるところに流れ着いているだろう。」と思いました。

歩道に堆積した漂流物の状況(常総市新石下)


 水が引いた後の漂流物です。

浸水域のいたるところに,いろいろなものが流れ着いていました。

右側の柵が傾いています。水圧で傾いたものと思われ,ガードレールまでもが倒れていました。


被害状況 きぬ医師会病院ロビー(新井木町) 27.9.12


 この写真は水が引いた後の病院内ロビーです。

いろいろなものが浮き上がり移動しています。

フロアーは一面泥で覆われています。

玉(たま)小学校(常総市若宮戸)
27.9.13


 小学校の校内写真。

やはり浮き上がり移動しています。

このように水が引くと泥が沈殿します。


大生(おおの)小学校昇降口(市南部大生地区) 27.9.16


 こちらの小学校も同様です。

石下(いしげ)中学校漂流物(常総市本石下) 27.9.13


 外にはどこからともなく流れ着いた漂流物が散乱していました。


石下(いしげ)中学校体育館内部(常総市本石下) 27.9.13


 こちらは東日本大震災で被災し再建したばかりの中学校体育館です。

フロアーは泥で覆われています。

玉(たま)小学校グラウンド運動会準備
(常総市若宮戸) 27.9.15


 こちらは水が引いた後の溢水現場に最も近い小学校校庭の様子です。

左端にテントが見えます。発災が9月でしたので運動会の準備をしていました。

校庭は一面,泥で覆われています。

きめの細かい,まるで紙漉きをした和紙のようです。


玉(たま)幼稚園内部(常総市若宮戸)
27.9.15


 溢水箇所に最も近い幼稚園内部の写真です。

てかてかと光っているのが泥です。

上質なチョコレートのようなきめ細かさです。

この泥が,家中のいたるところに入り込んでいるのです。

玉(たま)幼稚園グラウンド(常総市若宮戸) 27.9.15


 同じ幼稚園の前庭グラウンドです。

手前に写っているのが元々の地面で,中央付近に段差が出来ているのが分かると思いますが,この層になっているのが泥です。

この泥が街中に堆積するため,乾燥すると街中が”ほこりだらけ”になります。




7.2 決壊現場の状況


 次に決壊現場付近の写真を見てみましょう。


決壊現場付近(常総市三坂町)


 この写真の中心から少し右奥が鬼怒川(きぬがわ)の堤防です。

決壊した下流側から見ているところです。

地盤が深くえぐられているのがよくわかります。

改めて水圧の強さを思い知らされます。

決壊現場付近(常総市三坂町)


 こちらは反対側から写した写真です。

決壊箇所は写真左側です。

水は左側から右側に向かって流れました。

手前に片側1車線の県道が走っていました。

県道の奥には民家がありましたが全く残っていません。

まるで池のように地面がえぐられています。


決壊現場付近(常総市三坂町)


 この写真は県道上,手前南側から北方向を撮影したものです。

左側が堤防で,水は左から右に向かって流れました。

電柱が水の流れる方向に傾いているのがよくわかります。

わらのような漂流物が電柱に絡まっています。

決壊現場付近(常総市三坂町)


 これは水圧によって倒された立木だと思われます。

こんな大きな樹木も散乱しています。

写真奥が決壊堤防ですが,この写真では仮復旧された堤防が見えます。


決壊現場付近(常総市三坂町)


 倒壊家屋の廃材や泥に埋もれてしまった車もありました。

流れのすさまじさが感じられます。

決壊現場付近(常総市三坂町)


 流されてしまった住宅です。

かろうじて形は留めていますが,かなり下流に流されていました。