アイコン住民への啓発・広報(取組事例報告)

倉敷市 市民版災害廃棄物処理ハンドブック
「災害で出たごみってどうすればいいの?」
倉敷市 環境リサイクル局 リサイクル推進部
一般廃棄物対策課 課長主幹 大瀧慎也

令和3年2月

はじめに


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大瀧氏

大瀧氏

平成30年7月豪雨災害により岡山県倉敷市では甚大な被害が発生しました。その災害廃棄物処理の経験を踏まえて倉敷市の災害廃棄物の主担当者であった大瀧さんは、市民へのヒアリングを実施し、そこで得られた気づきをもとに市民向けハンドブックを作成しました。その作成プロセスと今後の展開について伺いました。


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1.ハンドブック作成に至ったきっかけ


ハンドブック作成に至ったきっかけについて教えてください。

大瀧氏

 市の職員数は行革等の取り組みにより減少が続いています。一方で、地域の抱える課題は地域ごとに異なり、公共サービスに対する地域住民のニーズは多様化しています。そのような中、通常業務においても、従来行政が行っていた事業を民間委託や住民との協働といった手段により実施しています。

 そのような前提条件のもとで災害廃棄物の処理を行っていくためには、被災された方や民間事業者の協力が必要不可欠となっています。

災害で出たごみってどうすればいいの

 いざ災害に見舞われると、一瞬にして平穏な日常を失ったことによるショック、今後の復興の見通しが立たないことによる不安や焦りの気持ちに加え、自分たちの想いとはかけ離れた対応をとる行政に対する不満や怒りの気持ちが担当者に向けられます。そのため、この時点でごみ出しについて、分別や持ち込みをするよう広報を行っても理解を得ることは難しいのが現実でした。

 しかし、発災から約1年経って少し落ち着きを取り戻した頃、被災された方に振り返りのヒアリングをしてみたところ、「地域全体のことを考えると、できる範囲で分別したほうが良かった」との意見が多く聞かれました。

 このことから、災害によって被災した家財等の処理はどうすればよいか、平時(の冷静な時)から継続して啓発を行うことにより、あるべき姿を共有しておくことが必要であると実感したため、住民向けの啓発用のツールとして作成しました。


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2.被災時の対応や市民ヒアリングで気づいた点について


1)

災害廃棄物について市民の理解を得る、あるいは行政と市民が協働することは、難しいことが多いと思います。平時・災害時に、特に難しいと感じたことは何ですか?

大瀧氏

 平時の啓発の対象は地域住民が中心となります。しかし、片付け作業には市外から支援に来られる身内の方やたくさんのボランティアが参加します。そのことを踏まえ、片付け作業をされるボランティアとの距離が近い社会福祉協議会やボランティア団体、被災後の早い段階から巡回訪問を開始する保健師等とも連携を取っておく必要があると感じています。そこで、令和2年度には、SDGsの考えをベースに平時から地域の様々な関係者と目的意識の共有化と役割の認識を図るため、協働で「災害廃棄物処理初動マニュアル(アクションカード)」を作成ました。

 災害時には、少しでも早く目の前からごみを無くしたいとの思いから、浸水被害の発生から2~3日後が作業開始のピークとなっていましたが、ヒアリングでは、口コミにより独自のルールが広まっていったという事実や、ごみの分別の必要性は頭では分かっていても行動に移せなかった、チラシがあることは知っていたが読んではいないといった事実に改めて気づかされました。

 平時からの取り組みとして必要なことは、正確な情報を入手する場所を知っておくこと、及び、非常時には情報が錯そうするため、正確な情報を入手するためには受け身にならず、自ら行動しないといけないといった意識を高めておくことであると感じました。


2)

上記1)とは逆に、市民の方々に理解・協力・協働いただけたこととしては、どのようなことがありますか?

大瀧氏

 道路脇のごみを撤去し終わった8月25日以降は、自宅前への排出を控えていただき、仮置場への持ち込み、若しくは、事前申し込みによる戸別収集へ切り替えました。その頃にはある程度混乱が収まっていたため、分別をはじめ適正処理に協力いただけました。


3)

過去の経験を通して、平時および災害時には、市民の方々にどのようなことを理解・協力して欲しいと思いますか?

大瀧氏

 被災された方一人ひとりの片付けが1日でも早く進むということは当然大切なことであるが、それぞれが自己都合で行動してしまうと、無秩序な状態となり、かえって一人ひとりの片付けが遅れてしまうことになりかねない。その状態を未然に防ぎ、被災した地域の生活環境を守るためにも、市はマクロの視点を持って「被災地域から一刻も早くごみを無くすこと」を目指して事業を行う。

 地域における協力の中には、「しない協力」という考えもあると思いますが、片付けに従事される方皆さんが、この「身近な地域目線の協力(間接的な共助)体制」の一員であることを理解・共有していただきたい。被災された方も、それを念頭に自宅の片付け作業を行っていただくことで、地域の中での役割の意識が生じ、混乱を少しでも小さくしていくための第一歩につながるものと思います。


4)

発信側・受信側について、災害時にどうやって情報を入手するかという情報ツールを知っておくことが大切と思いました。災害時にどのようなツールが有効でしょうか。

大瀧氏

 災害時の周知に当たっては、市のホームページのほか「広報くらしき」、「広報くらしき臨時号」、「まび復興だより」、チラシの避難所等への配布、FMくらしき及び報道機関への投げ込み等、様々な方法を用いましたが、ヒアリングでの意見で多かったのは、身近なところでの貼り紙でした。その際に、情報は詰め込みすぎず、大きな文字でとのご意見をいただきました。正確な情報を伝えるために情報は多くなりがちで、ハードルは高いと感じますが、工夫が必要と思います。


災害時の混乱した状況で「ごみの分別」には、聞く耳を持たない方が少なくないと思われます。そのため、平時から災害時に廃棄物をどうするか(分別や仮置場へ運搬する等)を知っておくとよさそうですね。

大瀧氏

 平時から広報・啓発をしていない場合、分別等の心構えができておらず、非常時にルールで縛ること(分別や仮置場への持ち込みを支持すること)自体が不満となり、他の不満も合わせて担当職員へとぶつけられることになると痛感しました。

 平時からの啓発を行うことで、ルールの必要性を理解していただいても、状況によっては必ずしも行動に移せるとは限りませんが、少し落ち着いた時点での行動には確実に差が出てくると思われます。


市街地で災害廃棄物を仮置きするスペースの確保はむずかしいと思われますが、パンフレットではどのように表現されたでしょうか。

大瀧氏

 「災害廃棄物が道路をふさいでしまうと、消防車や救急車の通行の妨げになるため、仮置場が開設されるまでの間、敷地内等での保管にご協力をお願いします。」としました。

 災害の規模にもよりますが、身近な空き地等の利用も念頭に(条件を付けて)個別対応を行うこととなると考えますが、継続的な課題と認識しています。


5)

スマートフォンのごみ分別アプリで土砂の問合せ先を廃棄物担当とされていますが、これは市民目線の対応でしょうか。

大瀧氏

 被災された方からの土砂の問合せは、多くは床下や敷地内に堆積した汚泥(土砂混じりがれき)についての問い合わせでした。災害対応において、市は想像を超える量の問合せ対応に迫られますが、言葉の定義への認識の違いから生じる食い違いも多いのではと感じます。

 非常時であるからこそ初動期に丁寧な対応をすることで不要なクレームや問合せを減らすことができると思います。


ごみ分別アプリの画面

ごみ分別アプリの画面


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3.パンフレットを作るのに工夫した点、苦労した点


上記を踏まえてパンフレットの構成ができてきたと思われます。工夫された点、苦労された点を教えてください。

大瀧氏

 倉敷市内であっても、被災地と被災していない地区では災害に対する意識に温度差があると感じます。被害状況の写真により、少しでも被害の甚大さや混乱時の状況を伝えることができるよう工夫しました。しかし、写真を多用すると、裏を返せば被災の記憶を呼び起こすことにもつながります。そのため実際に被災された方への配慮の点から、掲載する写真の選定等に苦慮しました。

 また、災害がおこった場合に情報を入手する方法及び災害ごみの分別が必要であることなど、ポイントが簡潔に伝わるよう、それぞれのページの端に縦書きのコメントを記載しました。


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4.公民館での災害廃棄物の講座の様子について


公民館での災害廃棄物の講座の様子について教えてください。

大瀧氏

 令和元年度に開催した公民館講座は、結果として受講者が9名と少なく、平時における災害廃棄物への関心の低さを実感しました。今回参加された方からは、「災害廃棄物が目の前から無くなった時点で災害対応は終わったものと思い、災害が既に過去のこととなってしまっていたが、災害廃棄物のその後の処理方法などを知るとともに、現在でも処理が継続している現場を目の当たりにして、より身近な課題として関心が高まった。」との感想をいただきました。さらには、「幅広い方たちに伝えることで被災体験を風化させないようにするために、市民としても意識していく必要がある。」との意見もいただき、改めて市の役割の大きさを認識しました。



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5.災害廃棄物への対応業務や市民啓発が、普段の廃棄物処理業務に与えた影響


災害廃棄物への対応業務や市民啓発が、普段の廃棄物処理業務に与えた影響は何かありますか?

大瀧氏

 廃棄物処理は常に市民の生活と直結しており、特にこの度のコロナ禍でのリスク管理等において市の対応が問われていると感じています。災害対応を経験したことにより、今まで以上に現場の状況をきちんと把握したうえで、最悪の事態を想定した対応を心掛けるとともに、関係者と情報を共有するように意識するようになりました。


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6.今後の地域ごとの啓発の予定について


ハンドブックで期待される効果はどんなことでしょうか。

大瀧氏

 市内の各地域が災害対応力を向上するために必要なことは、まずは意識することであると感じます。ハンドブック等が、地域における話題づくりや課題への気づきのきっかけとなればと思います。


危機管理部署その他部署との連携による取組の効果や課題を教えてください。

大瀧氏

 今まで、市の危機管理部署では、大規模災害が起こると必ず災害廃棄物の処理が発生するという認識が薄かったのですが、ようやく認識され始めました。

 今後は、災害廃棄物に関する担当者研修会への危機管理担当職員の参加や危機管理部署が行う市民への出前講座でハンドブックを活用して話題提供する等、災害と災害廃棄物をより一体的な課題として認識できるよう取り組んでいきたいと思っています。


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7.さいごに


他に行政が市民への啓発等を行うために参考となることがあれば教えてください。

大瀧氏

 行政だけで机上で対応策を考えるのではなく、多様なステークホルダーと一緒に処理スキームを作り上げていくことで、より実態に即した仕組みができるとともに、意識を高めることができると思います。

 ただ、通常でも業務に追われている現状において、災害廃棄物対策に専念する職員を確保する余裕がない中、このような行動を起こすことをリスク(負担)と感じてしまうのが実情です。私自身、被災経験を持つ行政職員でなければここまでの取り組みの必要性について自覚できなかったと思います。

 今では、事前の取り組みを広げれば広げるほど、災害発生時にできることの選択肢が広がり、そのことが、災害対応力を高めていくということにつながると実感しています。


 (聞き手)公益財団法人廃棄物・3R研究財団 中山育美
国立研究開発法人国立環境研究所資源循環・廃棄物研究センター 森 朋子


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関連サイトへのリンク


倉敷市 災害廃棄物
「大規模災害時のごみの出し方について」
https://www.city.kurashiki.okayama.jp/34104.htm

2021年2月26日現在


当プラットフォームでも同じ資料を掲載しています。
処理計画>処理計画に取組んでいる自治体(マップ・一覧)>岡山県倉敷市


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