テーマ別参考資料集(現在進められている取組レポート)

災害時におけるトイレとし尿処理について
大正大学 地域創生学部
岡山朋子

令和2年7月

1.はじめに


 地球温暖化の影響で、特に風水害被害は年々拡大かつ頻発している。また、この10年間にも大規模な地震災害が複数回起こっており、最近も東日本大震災の余震が起こっている。大規模災害においては、下水道が破断したり液状化現象によってマンホールや合併浄化槽が浮き上がったりするなどして、トイレが長期間使用できなくなることがある。そのため、地域防災計画においても災害廃棄物処理計画においても、仮設トイレの確保とそのし尿処理について規定されている。

 また、大規模な地震や風水害が起こると、停電が発生することがある。例えば、2011年の東日本大震災では仙台市では約1週間停電し、2018年の北海道胆振東部地震では北海道の多くの地域が約2日間ブラックアウトした。2019年の台風15号では、千葉県の一部地域で1ヶ月以上停電した。このように長時間の停電が起こると、直接水害や震災の被害を受けていなくても、停電地域においては断水してトイレの水が流れなくなったりする。つまり、災害時におけるトイレ対策は、直接的な水害や震災による被害に加えて、長期間停電および断水も想定しなくてはならない。



写真1 床上浸水したトイレ

写真2 被災したし尿処理施設

 筆者はこれまで、避難生活におけるトイレの使用状況等、自治体によるトイレ・衛生面での対応状況、仮設トイレの調達と避難所への配備状況等を把握することを目的に、被災者や被災自治体を対象にアンケート調査を実施している。本稿では、これまでの研究より得られた知見から、特に自治体が災害時にどのようにトイレ・し尿対策を実施するべきかを提言する。



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2 避難所開設と仮設トイレ調達に関する自治体内の課題


 大規模自然災害が起こったとき、自治体は住民の安全の確保のために避難所を開設しなくてはならない。これは災害対策基本法に基づく地域防災計画に規定されている。同計画においては、避難所の開設とともに仮設トイレの設置が定められている。一方、廃棄物処理法においても災害廃棄物処理計画を定めるよう指針が示されており、同計画においても仮設トイレの確保等トイレ対応とし尿処理について検討されることになっている。このように、災害対応にあたっては、避難所における仮設トイレの設置とそのし尿処理について、自治体は計画しておかねばならない。

 避難所開設はすべての自治体で徹底されており、かつその人員配備も防災担当部署によって庁内で決められているが、仮設トイレの調達を行う部署は廃棄物処理担当部署であることが一般的である。しかし、担当部署が一致しないため、しばしば人員配置のミスマッチや調達の遅れが起こる。さらに、上記のように大規模な停電が起こっていた際には、避難所においてもトイレの水が流れない状況にあり、避難所への仮設トイレ調達の遅れは、そのまま避難所トイレの混乱につながる。これは自宅避難者においても同様である。

 この混乱を回避するためには、平時より避難所運営に関して廃棄物処理担当部署の人員を割り振ること、仮設トイレ等については担当責任者を定めて避難所におけるトイレ運営ルールを定めておくことなどが求められる。なお、これらのルール決めと実際の避難所運営に際しては、女性の参画が極めて重要である。



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3 災害トイレ対応は迅速さが命


 2016年の熊本地震の被災者アンケートの結果から、地震発生後に最初にトイレに行きたいと感じた時間は、3時間以内が38.5%、6時間以内が34.4%、9時間以内が13.3%であることがわかった。また、避難生活の初期において「最も困ったこと」を尋ねたところ、眠れる環境が19.5%、トイレが18.3%であり、食事14.8%や飲みもの10.7%、プライバシー11.6%より重要度が高かった。仮に飲食を12時間我慢せざるを得ない状況に陥っても、多くの市民は耐えられるであろう。しかしながら、排泄については用を足したくなった時から何時間も我慢することは不可能である。熊本地震は夜間の地震であったため、比較的我慢できる時間が長かったことを勘案すると、発災後6時間がトイレ調達のリミットであると言える。つまり、自治体は発災後、仮設トイレなどの調達期限は6時間後であり、極めて短時間に対応しなくてはならない問題だと認識することが重要である。トイレ対応は、避難所における食事の提供よりもはるかに重要であり、避難所開設と同時に設置されるくらいのスピード感が求められる。この対応が遅れると、避難所や公共施設のトイレ、公衆トイレなどにおいて、24時間以内に便器に大便が溢れることになる。

 なお、2019年に避難所・避難生活学会は、避難所が被災者の命を守るために重要なことはTBK(トイレ、ベッド、キッチン)であると提言した。避難所運営においてはトイレの確保、眠れる環境の確保、温かい食事の確保が重要であるとされ、上記のアンケート結果とも合致する。



図1 発災後トイレに行きたくなった時間(熊本)

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4 仮設トイレの諸問題


4-1. すぐに調達できない


 東日本大震災及び熊本地震の被災自治体を対象に調査したところ、いずれも仮設トイレが行き渡るまで(避難所等から設置の要望が来なくなるまで)に最短で3日、平均日数は約2週間、最大日数としては約1ヶ月かかっていることがわかった。仮設トイレは、自治体が備蓄していない限り、レンタル会社が所有していて貸し出すものだが、用途の多くは工事現場やイベントである。つまり災害用に備蓄されているものではないため、災害時における一時多量な供出は困難である。平時より協定などを締結していても、発災後に確実に調達できる保証はない。そのため、近年の災害では政府によるプッシュ型支援によって送られてくるケースが多いが、東京からの距離によって国によるトイレ支援も数日間を要している。


4-2. 女性にとって命に関わるトイレ


 仮設トイレは、基本的に災害用に作られたものではなく、工事現場における男性工員のためのトイレであると前述した。最近では、従来は和式だけだった仮設トイレを洋式に変更したものが多くなってきている。しかしながら、あくまで仮設トイレは「男性が小便をする」ことを前提としており、「女性の小便」と「大便」は意識されていない。したがって、特に女性にとっては極めて使いにくい。



写真3 和式の仮設トイレ

 東日本大震災後の被災者を対象としたアンケートにおいては、回答者のうち女性は3割だったにも関わらず、仮設トイレの諸問題についての設問の回答率は女性が8割であった。さらにアンケートには、仮設トイレは屋外にあることから、女性にとって夜間などは危険であり、実際に性犯罪の温床となっているという情報提供もあった。

 トイレが女性にとって使いにくい上に危険な場所であると、避難所にいる女性はトイレに行く回数を減らすため、水分や食料の摂取を少なくする傾向がある。そして、エコノミークラス症候群を発症する。中越地震や中越沖地震、東日本大震災、熊本地震などいずれの災害においても、災害後のエコノミークラス症候群の発症は女性に偏っており、その多くの理由は「トイレに行きたくないので、水分摂取を控える」ことにあると言われている。すなわち、避難所に仮設トイレをただ置けば良いというものではなく、女性にとっては命に関わる問題であることに留意されたい。

 なお、洋式に便座を取り替えた仮設トイレは、ペーパーホルダーが背面に着いている状態になるため、男性にとっても大便をするには不便である。和式の仮設トイレは、高齢者や傷病者がその段差を登れないという事例も報告されている。また、テント型のトイレも、高齢者が掴まることができず、トイレごと転倒する事例が報告されている。



写真4 ペーパーが背面にある仮設トイレ

写真5 男女別になっていない仮設トイレ

4-3. 朝のトイレラッシュ


 避難所におけるトイレの使用は、朝に集中する。例えば、東日本大震災で被災し広範囲で断水した市で聞き取りをしたところ、公園に設置された仮設トイレに朝4時から4時間待ちで使用したとのことだった。

 熊本地震で被災した西原村でも、避難者は普段は避難所(体育館)内のトイレを使用していたが、朝だけは混むために運動場に設置された仮設トイレを使用したという。つまり、避難所にどれだけのトイレを設置すれば良いかは、20名に1基(スフィア基準)、最低でも75名に1基(阪神大震災時の実績)と言われているが、実際には朝に使用が集中することを考えて設置すべきである。しかし、仮設トイレだけですべての避難者のニーズに対応するのは極めて難しい。したがって、避難所で使えるトイレが仮設トイレしかないという状況では、朝ラッシュを回避することは困難であると言える。



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5 仮設トイレ以外の災害トイレ対策とごみ収集


 仮設トイレの設置は法律で規定されており、被災した自治体はすぐに調達しなくてはならない。しかしながら、前述したように仮設トイレは災害時のトイレとして使用するには課題が多い。そこで、仮設トイレ以外の災害時のトイレ対応を検討したい。

 多くの避難所では、停電によって水が流れなくても、便器そのものは使用できる状態であることが大半である。自宅避難の場合も同様である。そこで、これらの便座を使用する方法を提案する。すなわち、便座に携帯トイレ(便袋)を被せて固化剤やポリマーシートなどを入れ、その上に用を足して便袋の口を縛る。固化したし尿は固形廃棄物として収集して焼却処分するというものである。携帯トイレは避難所や職場、各家庭などで人員分備蓄しておけば、災害直後から使用することができる。



写真6 備蓄された便袋

写真7 便器に便袋をかぶせた様子

 仮に男女175名ずつ計350名が大学に2泊3日避難したと想定し、その間の携帯トイレに関するごみの総量を試算した。前提条件は以下である。全ての避難者が1日に6回小便、1回大便をするとする(大便1.2回/日、小便6.6回/日:日本トイレ研究所調べ)。また、成人の1日の便重量は80g~200g程度、1日の尿量は1200cc~1500ccとされているので、ここでは平均をとって男女とも便重量は中間値の140g、尿量は1350ccとする。女性の小便および男女の大便においては1回あたりトイレットペーパーを3m使う(日本トイレ研究所調べ)。女性にはライナーシート(以下、ライナー)の代わりに生理用ナプキンを1日5枚ずつ配布する。また4分の1の女性は生理中であるとする。手洗いができないので、ウェットティッシュを使用する。以上の前提に基づいて計算すると、これらのごみの総量は1,241.4kgとなり、1人1日あたりのトイレごみ量は約1.2kgとなる。つまり、災害時に自宅避難をしている地域において、仮に住民が全ての排泄を携帯トイレで行なったとすれば、通常の可燃ごみに加えて1人1日あたり1.2kgのトイレごみが収集されると想定できる。

 なお、実際にこれらの使用済み携帯トイレごみの収集運搬を行なった事業者によると、できれば使用済み携帯トイレは可燃ごみとは分別し、段ボール箱などに入れて新聞紙などで固定した上で、さらにその箱を大きなビニール袋に入れて排出するようにしてもらえば、パッカー車で収集しても便袋が破裂して中身が飛び散るような事態を防ぐことができるという。また、これらの携帯トイレごみの焼却においては、特に問題は報告されていない。

 避難所における仮設トイレの使用を全面的に否定するのではなく、例えば高齢者を除く男性専用にするなどのルールを定めて複合的なトイレ対応をすると良い。男性にとっても仮設トイレは快適なトイレとは言い難いため、できれば災害時のトイレは様々な工夫によって多様に整備されることが望ましい。例えば、2018年に豪雨被害を受けた宇和島市の避難所となった公民館では1ヶ月ほど断水したが、発電機を使って給水タンクから高置水槽に水をポンプアップすることで、館内では平時と同じように水を使えるようにしていた。トイレの水も問題なく流れることから、相当数の便袋も備蓄されていたがほとんど使用しなかったという。また、館外に仮設トイレも設置されたが、使用者は自衛隊員が主だった。



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6 さいごに


 筆者は、しばしば都府県の依頼で災害時のトイレ対応をテーマとした講演依頼を受けるが、その場にいる廃棄物処理部署の行政職員は大半が男性である。女性は1割いれば多数である。講演後に、その少数の女性職員から個別に質問を受けることが多いが、公開の場では質問しにくいからだという。避難所においても、女性は自らの生理現象について男性に要望し難い。この状況が、女性をエコノミークラス症候群に追いこむ可能性がある。

 避難所生活においては数日間、下着の洗濯ができない。そのため、女性避難者用にライナーを備蓄すべきであると伝えたいが、多くの男性はライナーの存在を知らない。そこで筆者は、「ライナーの代わりに生理用ナプキンを全員に配る」ことをあえて提案しているが、備蓄物資の容積や避難所ごみの発生抑制を鑑みれば、ライナーを適正備蓄した方が良い。しかし、実際にはライナーは備蓄のラインナップにも上がらない。

 他にも、避難所において一人の女性が生理になると、なぜか周りの女性たちも生理になるという「感染」が起こる。これは科学的に証明されている現象ではないものの、多くの女性が実感している現象である。避難所では極めて起こりやすい現象であると考えられ、そのため避難所で備蓄されている生理用ナプキンが不足することが想定される。

 こういった事態に対応するため、前述したように避難所のリーダーや廃棄物処理に当たるチームには、女性を必ず参画させるように留意してほしい。



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